落水と転覆のメカニズム:ホール編

パックラフト入門

パックラフトの落水・転覆パターンの一つに、ホールに捕まる、というパターンがある。ホールのサイズや形状によってはそもそも避けなければならないものもあるので、その判断基準についても知っておきたい。

ホールとは何か?

ホールとは小さな滝のようなものだ。下のイラストのように、上流から流れてきた水が地形や岩によってできた落ち込みを勢いよく流れ落ちると、その落ち口が小さな滝壺になり白波が立つ。落ちてきた水はそのまま深く潜りながら下流に流れ、やがて水面に向かって浮き上がる。浮き上がった水は湯が沸く時のように水面にボコボコと丸い盛り上がり(ボイル)を形成する。このボイルラインから下流では、水は通常通り下流に向かって流れている(アウトウォッシュ)が、ボイルラインから上流側では、水が滝壺に向かって上流向きに流れている(バックウォッシュ)。

イラストでは、水の流れをわかりやすく表現するため川幅いっぱいの滝のような図になっているが、ダウンリバー中に出会うのは主に岩が隠れてできたホールだ。もしも実際にイラストのような滝に遭遇した場合はポーテージしたほうが良いだろう。また、このイラストに似たものとしてローヘッドダムがある。それこそ川幅いっぱいの人口の滝のようなものだ。落差がそれほど大きくないので行ける気がするかもしれないが、よく見てみると驚くほど下流にボイルラインがあり、絶対にチャレンジしては行けないことを悟るだろう。事実、ローヘッドダムで多くのパドラーが命を落としている。

行けるかどうかの判断

勢いよく落ち込みを超えて白波を突破するのが、ダウンリバーの醍醐味の一つではあるが、サイズや形状によっては突破できないものある。また、突破できるサイズや形状だったとしても、スピードが足りなかったり、ホールに対して直角に侵入できなかったりすると、落水や転覆につながることがある。

ホールのサイズ

ホールを突破できるかどうかを判断するために、まずはボイルラインを見つける。落ちる前の数ストロークで加速し、白波を突破した勢いでボイルラインを超えられるかどうかが基準となる。

ホールの形状

自然の岩が隠れてできたホールであれば、両端にバックウォッシュの弱い抜け道がある場合が多が、特殊な地形や岩によってできたホールで、両端からも内側に向けて強いバックウォッシュが見られる場合は避けたほうが良いだろう。

ホールまでのアプローチ

ホール自体は突破できるくらいの大きさや形状だったとしても、ホールまでのアプローチ上にある小さなホールや岩の配列等も考慮し、十分加速できるか、正しい侵入角度を作れるかどうかも考慮しなければならない。

ホールを突破するための3ステップと失敗例

STEP 1

落ち込み前に前漕ぎで加速する。ガンガン漕いでラスト3漕ぎくらいからは、然るべきタイミングで渾身の一漕ぎを始められるようテンポを考えて漕ぐ。

STEP 2

渾身の一漕ぎを右側のブレードで漕ぐ場合はバウ(船首)をあらかじめ少し右に振っておき、左側のブレードで漕ぐ場合はバウをあらかじめ少し左に振っておく。この微調整を渾身の一漕ぎで使用する側のブレードで行いながら漕ぎ始めのタイミングを待つと良い。

STEP 3

渾身の一漕ぎは、バウが白波に到達する直前に漕ぎ始める。少し横に振っていたバウが漕ぎ終わりで前を向くように。白波を越えしっかり後ろまで漕ぎ切ったら、すかさず次の一漕ぎでバックウォッシュを抜ける。

失敗例

ソリに乗った状態で、急な下り坂を今まさに滑り降りようという瞬間、おそらく多くの人が体を後ろに反らしてしまうだろう。これと同じ原理で、パックラフトに乗った状態で、落ち込みを今まさに落ちようという瞬間、体を後ろに反らしてしまう人が多い。後傾になるとバウが下がってしまい、滝壺に刺さるような形で着水することになる。後傾の状態では渾身の一漕ぎもできない。直立を維持した状態で渾身の一漕ぎをしっかり後ろまで漕ぎ終えることが突破のカギとなる。

突破できないとどうなるか

スピードが足りなかったり、正しい角度で侵入できないと、ボイルラインを越えられず、バックウォッシュに乗って滝壺まで戻され、水中に引きずりこまれる。少し沈むとパックラフトの浮力で、ポンっと跳ねて滝壺を抜けるが、またすぐに引きずりこまれる。この状態を、「サーフィンする」とか「ホールに捕まる」と表現する。何の対処もしなければ引きずりこまれた拍子に落水するだろう。落水する瞬間にパックラフトにしがみついていたら転覆することもある。人間は密度が大きいので、水中に引きずりこまれた瞬間深くまで沈み、そのままアウトウォッシュに乗ってホールを抜けられることもあるが、すぐに浮いてきた場合は、またバックウォッシュに乗って滝壺まで戻され、水中に引きずりこまれることになる。仮に人間はホールを抜けたとしても、浮力の大きい無人のパックラフトだけがホールに捕まり続ける、ということもよくある。

上の動画にあるホールを、パックラフトに乗った状態で上流から見た画像が下にある。

あまり波の立っていないところ(画像では黒っぽく見えている)、矢印の少し先に、白い横線が見える。他にもホールの画像を二つほど。こちらも白い横線に見える。

ホールに捕まったらどうすべきか

侵入の際の速度が足りなかったり、角度が甘かったりすると、落ち込みを抜けた後一瞬パックラフトの動きが止まる。ヤバイ!と思う瞬間だ。そこからは全力で前漕ぎをするしかない。運が良ければ抜けられることもあるが、抜けられなかった場合はサーフィンが確定する。一旦ホールに捕まると、無事に脱出することはとても難しいので、この時点で落水や転覆を覚悟しなければならない。

ハイサイド&ドロー

ホールに捕まると、パックラフトの上流側のチューブが沈められて大きく傾く。その傾きに抗うため、すぐに下流側に重心を移動(ハイサイド)する必要がある。ハイサイドが遅れると一瞬のうちに落水または転覆するだろう。さらにドローストロークでアウトウォッシュを掴むことで、運が良ければホールから出られることがある。

ハイサイド&ドローで抜けられそうになければ、横向きのまま端まで漕いでみよう。自然の岩などで形成されたホールであれば、その端を越えたら通常通り水が流れている場合が多い。必死に漕いでその流れに乗ることができたら、みごと脱出となる。

ロープレスキュー

このサイズのホールが点在する川であれば、仲間とのダウンリバーが大前提となる。行けるかどうかギリギリの落ち込みにチャレンジしたい気持ちはわかるが、チャレンジして良いのは熟練者のバックアップがある場合に限る。ホールに捕まり自力で脱出できないときは、陸からロープを投げてもらい、引き寄せてもらう必要があるからだ。